信託の仕組みを使った新しい従業員持ち株制度を導入する企業が増えている。従業員を「重要なステークホルダー(利害関係者)のひとつ」とみる考えに基づき、市場から購入するより有利な条件で自社株保有を促すためだ。企業側には、社員を「安定株主」として確保する狙いもある。
上場企業の約9割が導入している、従来の従業員持ち株会は事前計画に沿って定期的に購入しなければならない。市場を通して買い取るため、株価が想定できず、高値で取得するケースもあった。これに対し、新制度は株価の下落時に機動的に自社株を取得できるのが特徴で、従業員持ち株会よりも株価上昇の恩恵を受けやすい。
信託期間の5年間の終了時に株価が上昇し、信託内の財産が増えた場合、従業員に分配するといったインセンティブもある。株価が下落し、金融機関が信託に融資した資金を返済できない場合でも企業が不足分を補(ほ)填(てん)するため、従業員への追加負担はないという。
具体的には「従業員持ち株信託」(ESOP)と呼ばれる新制度が昨年秋以降に急増。これは金融庁がガイドラインを整備したためだ。
2月にESOPを導入した新古書販売のブックオフコーポレーションは「総合中古品販売業へと転身を進める中、従業員のモチベーションを高め、企業価値の向上につなげたい」(コーポレートコミュニケーション室)と導入の背景を説語る。同社は企業年金制度を持たないため、新たな福利厚生としても活用する。
和歌山県地盤の紀陽銀行を傘下とする紀陽ホールディングスの場合、公的資金注入を受けているため従業員の昇給が難しく、「ESOPで補いたい」(グループ企画部)と語る。
こうした企業の動きを受けて金融機関の取り組みも本格化しており、野村証券と三菱UFJ信託銀行が2月にそれぞれ4社に提供したほか、住友信託銀行は今月中にESOPを受託する見込みだ。(川上朝栄)
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